2019年12月26日木曜日

「母数」について

今までアレゲなとこに書いてきたもののまとめのようなものとして、Twitterの投稿を貼る。

前提を説明しておくと、『日国』こと『日本国語大辞典』という歴史主義の辞書がある。 日本語の一番大きな辞典であるが、規範を示すための辞書ではなく、実際の用例や意味変化を見るためのものである。

問題となるのは『日国』の「母数」の項である。JapanKnowledge版から一部を省略して引用する。

(1)歩合算における元金の称。
*慶応再版英和対訳辞書〔1867〕「Denominator 名ヲ付ル人。母数 算術ノ語」

...

(4)分母のこと。

「母数」については、統計学で parameter の訳語にあてられてあてあれている。 他の数学の分野では、modulus やそれから派生した語の訳語である可能性がある。 両者に共通した意味を説明しておくと、式に含まれる変数で、その式の別の変数を動かすときに定数扱いされるが、 式の表す何かの特徴を考えるときには変数とした扱われるものである。

しかし、この語を日常的に使われる意味で使うと「母数警察」と呼ばれる人たちが出てくる。 その人たちに説明しても理解はしてくれないが、解説はしておきたい。

つまり、留保はつくが《分母》の意味が古く、(1)の例は(4)のものと考えた方がいい。

其法分母数を以って整数に乗してこれを分子の数を加へ通分の子数と成して 其母数は旧に依て幾分の幾と云なり[旧字を新字に、変体仮名をひらがなに改めた]

語釈にも問題があり「元金」とあるが:

ところが、この意味でこそ「母数」を使う:

本論ではないが、「統計学に詳しい」と自称する人たちの「母数」の用法にはユレがあり、 parameter の意味だけでなく、population characteristic の意味でも使う人がいる。

法学の「特別法優先」の法則にあたる、一般的な規則(ここではかつての算術の用語のなごり)より分野のみの規則(統計用語)を優先させるのはかまわないが、 理解した上で批判して欲しい。