ここでは、近世までの掛け算を説明します。これを藤澤が日本に輸入しています。
ニュートン『普遍算術』で p.4 下部 Moreover からが、「AB×ACで面積」が実はおかしく、
— TAGA Yoshitaka (@TagaYoshitaka) January 16, 2026
単位面積×(ABの単位長さ幾つ分)×(ACの単位長さ幾つ分)
なのだという部分。
乗法の定義が現在のと別なためですが、今の定義と乗法が使える現象の範囲を説明できますか。https://t.co/STMBRFvQKv 1720年英訳版 pic.twitter.com/SgDEykjNd6
ニュートンの時代には、量×数と数×数が定義されていても、数×量が定義されていないので、上のようなことになっています。ざっくりとまとめると、次のようになっているからです。
古代ギリシアから近世まで(かつ高木貞治『数の概念』)の「実数」と「乗法」を雑に説明すると、
— TAGA Yoshitaka (@TagaYoshitaka) January 9, 2026
1次元の連続量Uから同じUへの「線形写像」の集合が実数Rで、
量と数の掛け算 ×:U×R→U を u×r = r(u) 、
実数どうしの掛け算 ×:R×R→R を (r×s)(u) = s(r(u)) として、
数と量の掛け算は定義していない。
ただし、いろいろな連続量から同じ連続量への正比例(線形写像)で作れる「実数」がすべて同型であり、さらに$\mathbf{R}$から$\mathbf{R}$への正比例で作られるものも同型なので、全部、同一視しています。
こういう体系なので、量×数、数×数を定義していても、数×量を定義する必然性がないということになります。$r(u) = u\times r$ にしているのに、わざわざ $r \times u = r(u)$ のするのは無駄です。
これをもう少し歴史的に説明していきましょう。
そこで乗数を実数に拡張して「倍」や「比」で定義しなおす。
— TAGA Yoshitaka (@TagaYoshitaka) January 6, 2026
;; Y : X = r : 1 のとき X × r := Y (X, Y は同じ種類の大きさ, r は実数).
このとき (1) 4m × 3.5 = 14mと計算できても、 (2) 4m/s × 3.5s = 14mが実は未定義なので、(2)は(1)の手抜きの書き方というのが、近代前半までの算術の体系。
掛け算の定義として、累加が示されることがありますが、それでは乗数が自然数のときだけしか計算ができません。
累加は、乗数(×の右側の数)だけ被乗数(×の左側の数か量)を加えることです。
これを素朴に言っているのが、
(全体の大きさ) = (1当たりの大きさ) × (いくつ) です。
4 × 3 = 4 × 2 + 4 = 4×1 + 4 + 4 = 4 + 4 + 4 = 12, 3 × 4 = 3 × 3 + 3 = 3 × 2 + 3 + 3 = … = 3 + 3 + 3 + 3 = 12 のような計算はできます。
4m × 3 = 4m × 2 + 4m = … = 12m の計算もできます。しかし、3 × 4m は計算できません。未定義だからです。
同様に 4.5 × 3 = 13.5 の計算もできますが、3 × 4.5 は計算できません。未定義だからです。
掛け算できる範囲を広げるために、そのために比を使います。
自然数と基準にする自然数の比、量と基準にする同じ種類の量の比は、アルキメデス性をもとにした(ユークリッドの)互除法によって、連分数として書くことができます。
例えば、15m : 4m を計算するには次のようにします。
$$ 11\mathrm{m} = 4\mathrm{m} \times 2 + 3\mathrm{m}; 4\mathrm{m} = 3\mathrm{m} \times 1 + 1\mathrm{m}; 3\mathrm{m} = 1\mathrm{m} \times 3 $$これらから $11\mathrm{m} : 4\mathrm{m} = 2 + \frac{1}{1 + \frac{1}{3}}$
この連分数で書いているものが、実は実数です。有限の連分数が有理数です。いつまでも終わらない無限の連分数が無理数です。この比としての実数の中に自然数は含まれているとみなすことができます。
さらにの比にも加法が定義できるので、比と基準にする比の比も考えられ、連分数で書くことができます。このとき、$r$ が比であれば、$r : 1 = r$ です。
この比を使って、(全体の大きさ) : (1当たりの大きさ) = (いくつ分) : 1 のとき
(全体の大きさ) = (1当たりの大きさ) × (いくつ分)
と定義します。
(いくつ分) が自然数であれば、これは累加と同じになります。
注意して欲しいのは、比の前項と後項は同じ種類の大きさ、つまり、数どうし、同じ種類の量でなければなりません。(いくつ分) : 1 があるので、(いくつ分) は数でなければなりません。 そのため、量×数、数×数は定義されていても、数×量は定義されていません。つまり、4×3.5 は計算できるようになり、4m × 3.5 も計算できるようなりましたが、3 × 4m は計算できません。
このような定義のもとで、2種類の量が出てくる問題はどうすればよいでしょう。例えば、次のような問題です。
毎秒4m で進む人は3秒間で何m進むか。
ここから、(みちのり) : 4m = 3s : 1s
という比例式をまずつくります。しかし、これでは掛け算の定義にたどりついていないので、
3s : 1s = 3 : 1
と数の比にします。それにより
(みちのり) : 4m = 3 : 1 がえられます。
そこで、4m × 3 = 12m となります。
こういう数学を「間違っている」という人たちもいるようですが、その人たちのしている数学に制限をかけたものが、このような古い数学です。 これが間違っている、つまり、矛盾があるとすると、自分たちの数学にも矛盾が生じることは理解して欲しいものです。
念のためですが、私はこのような数学がいいとは言っていません。こういう数学もあったという歴史を説明しているだけです。
こういう掛け算が嫌だというのであれば、掛け算をどう定義しますか。その定義のもとで、どういう現象であれば掛け算を使ってよいかを示せますか。 私たちが応用で使っている掛け算では 4m/s × 3s のような対応する現象が簡単に想像できるものだけでなく、4m × 3A のような対応する現象が想像しにくいものも掛け算できてしまいます。 ということは、どういう現象であれば、掛け算が使えるのかを示す必要もあります。 「掛け算の順序」を批判している人たちは、この2つを示していますか。