2014年3月11日火曜日

形容詞・名詞複合語のテスト

複合語 compound word か否かのテストが言語を越えて どれくらい使えるかについて考えていた。 今回とりあげたいのは、形容詞・名詞型のもの、 英語の例では blackboard のようなものである。
よくあるのは、矛盾する修飾が可能か、形容詞を強調不可能か、 であろう。
  • (1)a. green blackboard != *green black board
  •    b. *truly blackboard != truly black board
これらは、日本語でもある程度までは使えるが、やはり問題もある。
日本語の場合、 「うすいいた」のように中間に屈折語尾があるものを句、 「うすいた」のようにないものを複合語とするのが、 形態論的には簡明である。
しかし、屈折語尾があるものでも矛盾する修飾語を付けることができるものがある。
  • (2)a. 厚い薄い本 (「薄い本」"同人誌")
  •    b. 虹色の赤い糸 (「赤い糸」"運命の恋人を結ぶ架空の糸")
このようなものの場合、形容詞の強調は難しい。 下はヤンデレもののタイトルなら可能かもしれない。
  • (3)a. ??とても薄い本 (「薄い本」"同人誌")
  •    b.?とても赤い糸 (「赤い糸」"運命の恋人を結ぶ架空の糸")
なお、屈折語尾が中間にないものでも、意味の透明性が高いものでは、 矛盾する修飾が難しい。
  • (4) ?小さい大声
形容詞への強意には、統語論的な手段と形態論的な手段がある。 テストで問題になっているのは、実は前者の方である。
  • (5)a. *とても薄板
  •    b. ごく薄板
  •    c. とても薄い板
  •    d. ごく薄い板
ところが、いっけん形容詞への統語的な強意が可能な例もある。
  • (6)a. とても薄味
  •    b. ごく薄味
  •    c. とても薄い味
  •    d. ごく薄い味
「薄味」「薄顔」のような例では、全体が偶発性や属性を示し、 かつ、正の向きが形容詞により決められているので、 形容詞への強意のように見えるだけであろう。
  • (7)a. とても薄味な味噌汁 != *とても薄味の味噌汁
  •    b. ごく薄味な味噌汁 = ごく薄味の味噌汁
  •    c. ?とても薄い味な味噌汁 != とても薄い味の味噌汁
  •    d. ?ごく薄い味な味噌汁 != ごく薄い味の味噌汁
ということで、矛盾する修飾が可能かは、 語彙化されていることの十分条件のテスト、 統語的な手段で強意可能かは、 句であることの十分条件の条件のテストであり、 それはいろいろな言語でも使えそうである。
なお、 強意については、いわゆる関係形容詞の場合は不可能であることにも注意が 必要なはずであるが、日本語の場合には英語などの関係形容詞が「○○の」に なることが多い(例: British parties 「英国政党」)ので、 それほど問題にならないであろう。