2014年9月26日金曜日

ジェンダー不平等解消への言語の変え方 2種類

日本ではどういう訳か 英語圏のジェンダーの区別をしないようにする取り組みのみが 紹介されている。 日本語のように文法性の標示が義務的でない言語では、 そういう方向を紹介する必要があるが、 それだけではまずいと思う。

英語の例として、man が"男"と"人"の両方の 意味をもっていたのが問題視されたことの解消として、 "人"の意味で human の使用が広まった例をまず 確認しておこう。同じような時期から、 men の相対頻度が下がり、humankind の相対頻度が上っていく。

それに対して、文法性の標示が義務的な言語では、 文法性に対して中立な単語を使うのが難しいので、 両方の性を使うという方向になる。 スペイン語の profesora `女性の教師' の相対頻度も近年、 上っている。 グラフは定冠詞つきものである。 なお、1900年前の高まりの原因は不明である。

フランス語の大統領の女性形の相対頻度も作ってみたのだが、 これは少し意外だった。 アカデミーの規範である女性形の敬称に男性名詞の組合せが一時的に増えたもので、 現在よく使う敬称も名詞も女性のものの方が古くから使われていた と読み取れる。

2014年9月23日火曜日

母語話者の「語感」とコーパス

強意語 very と really の使い分けについての 学習者向け記事があった。 その中では very を客観的、 really を主観的としている。

この主張自体には、とやかく言う気はない。 母語話者がそう思うことは貴重なデータである。 ただし、それが現実を反映しているかは別であり、 確認する必要がある。

really と very で主観性に差があるとすれば、 形容詞によって、really と very のオッズ比が変わるはずである。 例によって手抜きで Google Books コーパスを 使って確認しよう。 hungry と busy では hungry の方が主観性が高いので、 really に偏るはずである。 下のグラフの青線と赤線は、 be 動詞現在形一人称 am の省略形 'm の後でのそれぞれ hungry と busy のオッズ比の 変化である。 これを見れば、確かに主観的な hungry の方が近年は高く出ている。

ところで、主観性が高いはずの hungry でも、 緑線のように am のままであれば、圧倒的に very に偏る。 これは何を意味しているのであろうか。 really と very の選択のかなり大きな部分が、口語であるか否かによると考えるのが無難であろう。

実は、同様の傾向が awfully について 1910年ごろにも見られる。

これらのグラフから考えるに、むしろ very と really のちがいは、 very が無標の強意語であるのに対して、 really が近年の口語で流行の強意語であることを示しているのではないだろうか。 まだ強意ができる形容詞が広まりつつある段階で、 強意されやすさが主観性に関係しているのではないかと思う。

2014年9月21日日曜日

not to do か to not do

英語の外国語向け学習書をチェックしていて、 不定詞の否定形が気になったので、 Google Books Ngram でグラフを作ってみた。 まだ変化の兆しがあるという状況だろうか。

伝統的な規範では not to V のように否定辞 not が不定詞の前に置かれる。 しかし、to not V のような「誤用」が学習者にみられる (例えば、M. Swan の Pratical English Usageを参照)。 母語話者にも使われているようだが、 実際の使用例は記憶になかった。 ところが、ESL(English as a Second Language)向けのもので、 to not do がかなり見られるようである。 例えば、 Collins の Easy Learning English Verbsでは一貫して to not do のような語順を選んでいる。 Longman Pocket Phrasal Verbs Dictionary でも 少なくとも go back on の項目では to not V を使っている。

ということで、Google Books Ngram Viewer で、 to not V と not to V の相対度数のグラフを作ってみた。 アメリカ英語のもので、分子は to not V の度数、分母は to not Vと not to Vの度数を足したものである。 1960年代ぐらいから to not V の割合が増えている。