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2017年6月30日金曜日

19世紀半ばまで×を into と読んだ

掛け算の記号×を19世紀半ばまで主に into と読み、これがラテン語の対格支配の前置詞 in に由来するようだ。 ラテン語 in は奪格支配で英語の in に、対格支配で into に対応する。

×は現在では times, multiplied by と読む。ところが、times は意外と新しく、順番についても前後があるようである。 他でも書いたが、現在とは逆順の例は次に通り:

The Sign of multiplication is ×. It is read times, or multiplied by.

When placed between two numbers, it shows they are to be multiplied together. Thus, 9×7 is read, 9 multiplied by 7 or 7 times 9. (p.35)

それはさておき、それ以前の読み方 into についてである。百科事典をあげる:

  • Park, Roswell. 1841. Pantology: Or, A Systematic Survey of Human Knowledge; Proposing a Classification of All Its Branches and Illustrating Their History, Relations, Uses, and Objects; with a Synopsis of Their Leading Facts and Principles; and a Select Catalogue of Books on All Subjects, Suitable for a Cabinet Library. Hogan & Thompson. https://books.google.co.jp/books?id=uwhDAAAAIAAJ

The sign of multiplication, (×), called St. Andrew's cross, is read into, and placed between quantities that are factors:

これがラテン語に由来することが、19世紀初頭の教科書に書かれている。 ducere は "ひきいる/ひき出す/ひき伸ばす" を意味する動詞である。

  • Ludlam, William. 1809. The Rudiments of Mathematics: Designed for the Use of Students at the Universities : Containing an Introduction to Algebra, Remarks on the First Six Books of Euclid, the Elements of Plane Trigonometry. John Evans. https://books.google.co.jp/books?id=gB9LAAAAYAAJ

The mark for multiplication is ×, and is called into; thus 5 × 2 is read 5 into 2, meaning 5 multiplied by 2. The phrase into is borrowed from Latin: for Ducere numerum in numerum is to multiply one number by another.(p.29)

いっぽうOEDのネット版は数学用語の廃用として into の項で次のように説明している。

Used to indicate multiplication, as to multiply x into y (by considering the multiplicand replicated once for each unit of the multiplier).

ただし、単独の into での説明はない。

なお、OEDの文例で Barrow のものだけが ducere に対応する draw がある。 『原論』の英訳ではあるが、原文にはない Barrow の加筆による部分にある。 前後の文脈を含めると次のようであった。

  • Barrow, Isaac. 1705[1660]. Google Play の書籍 Euclide's Elements: The Whole Fifteen Books Compendiously Demonstrated. To which is Added Archimedes Theorems of the Sphere and Cylinder, Investigated by the Method of Indivisibles. E. Redmayne. https://books.google.co.jp/books?id=pmpbAAAAQAAJ

If the side AB be of a right-angled parallelogram ABCD, be conceived to be carried along perpendiculary thro' the whole line BC, or BC thro' the whole AB, the Area or content of the Rectangle ABCD shall be produc'd by that motion. Hence a rectangle is said to be made by the drawing or multiplication of two contiguous sides. For examples sake; let AB be supposed four foot, and BC be three: draw 3 into 4, there will be produced 12 square feet for the Area of the Rectangle. (p.29)

近代ラテン語の例は、次のものが分かりやすい。 ducere は仮に「倍する」と訳した。 そのため multiplicare の系列の multiplex を通常とは違うように訳している。

Multiplicare numerum A per B, vel (ut aliis terminis solent Mthematici loqui) ducere numerum A in B, est invenire tertium C, qui toties contineat numerum A, quoties unitas continetur in B. Vel multiplicare A per B, est invenire tertium C, qui toties sit multiplus de A, quoties B est multiplex unitatis. Numerus A dicitur Multiplicandus, B Multiplicator; C Productum.(p.14)

Signum Multiplicationis istud ×. Sic 2 × 4 = 8, significat, 2 ductum in 4 generare 8. (p.15)

数AをBにより「乗じる」、 もしくは(そのように数学者たちは言う習慣なのだが)、 ducere numerum A in B [数AをBにまで倍する] とは、 Bの中に1が含まれるだけ、A を含んでいるような 第3のもの C を見つけることである。 もしくは、数AをBにより「乗じる」とは、 Bが1のどれだけ重ねであるだけ、 Aを重ねたような第3のものCを見つけることである。 数Aは「被乗数」、Bは「乗数」、Cは「積」と呼ばれる。(p.14)

「乗法」の記号はこの×である。 そこで 2 × 4 = 8 は、 2 ductum in 4 generare 8 [2 の倍されたる 4 までは、生む 8] を意味する。(p.15)

ducere の受動分詞 ductum が省略され、in のみが対応する英語 into で使われていたようだ。

2016年6月13日月曜日

日本諸方言における前鼻音のOTによる一解釈

日本語の古語にあったとされる前鼻音が弁別を強化 enhance するため、 つまり素性を追加することで弁別しやすくするためであったと考えてみようという試みである。 OT(最適性理論)を使っている。 元ネタは、次のもの(直接の参照はKindle版):

  • Flemming, Edward. 2005. Speach Perception and Phonological Contrast. In Pisoni, David, & Remez, Robert (eds.). The Handbook of Speech Perception. Blackwell Handbooks in Linguistics. Malden, MA: Blackwell.

ただし、Flemmingがよくないとしている方法を強引を使っている。 アイディアは単純なのだけど、テクニカル。

使う制約はFlemmingのものだが、PrenasalizedはFlemmingが妥当ではないとしているもの:

*VTV
母音の間では無声阻害音はよくない。
Prenasalized
有声阻害音なら前母音鼻音化するもの。
Ident(Nasal)
鼻音性は基底と表層でできれば同じ。
Ident(Voice)
有声性は基底と表層でできれば同じ。

まずは、東北の /mato/ = [mado], /mado/ = [maⁿdo] を作ってみる。 ここでのミソは、同順位の制約の違反は足し算にならないこと。

(1)a. 東北方言、基底は無声
/mato/*VTVIdent(Voice), PrenasalizedIdent(Nasal)
 mato*!
⇒mado *, *
 maⁿdo *, *!
(1)b. 東北方言、基底は有声
/mado/*VTVIdent(Voice), PrenasalizedIdent(Nasal)
 mato*!
 mado ,*!
⇒maⁿdo , *

これの前にあったはずの古代日本語のばあい。ただし、*VTVの位置はIdent(Voice)以下ならどこでもいい。

(2)a. 古代日本語、基底は無声
/mato/Ident(Voice), *VTVPrenasalizedIdent(Nasal)
⇒mato ,*
 mado*, *!
 maⁿdo*, *!
(2)b. 古代日本語、基底は有声
/mado/ Ident(Voice), *VTVPrenasalizedIdent(Nasal)
 mato ,*!
 mado *!
⇒maⁿdo *

PrenasalizedとIdent(Nasal)が同順位ならゆれている状態。Ident(Nasal)>>Prenasalizedなら現代の前母音がない状態。

2015年9月27日日曜日

仏語 spécial の異分析

2015年5月のロマンス語学会大会、 2015年9月の東京フランス語研究会で、東京外国語大学の古賀氏が、 「名詞 spécial 名詞」という形について、 研究発表をした。 丹念にデータを集め、きちんと検討をした、優れたものであった。 氏は、ここで「名詞 à 名詞」型の複合名詞と似た点があり、 spécial をコネクターと考え、 さらに 「spécial 名詞」が独立して使われる例を紹介された。

尻馬に乗り、いくつか例を追加したい。

以下の例は1965年に発刊された雑誌(Montpelhier大学のBulletin trimestriel: Société languedocienne de Géographie)のもので、Google Booksで見付かった。

(1) tarif spécial étudiant
    料金  特別な  学生
    "学生特別料金"
     https://books.google.co.jp/books?id=zkksAAAAMAAJ
  

この例では、 限定型「学生[特別料金]」なのであったが、 接置型「[学生特別]料金」 という構造になっても不思議ではない。 実際、そういう方向になっていると考えられる。

少なくとも限定型では名詞が複数のときもある。 以下の例は2006年のものであるが、 同じ表現を私が学生であった四半世紀前にも見た記憶がある。

(2) tarif spécial étudiant et chômeur
    "学生・失業者特別料金"
    https://books.google.co.jp/books?id=LIIiAQAAIAAJ
  

ところが、比較的最近のものではspécialを繰り返すものも見付かる。

(3) Un tarif spécial famille nombreuse et spécial étudiant ceinture noire
    "子沢山家庭特別・黒帯学生特別料金"
    http://www.castries.fr/index.php/Outils/imprimer?idpage=64&idmetacontenu=328(Googleのキャッシュ)
  

限定型であれば、他の形容詞の似た意味・構文のはずのもので、 性・数の一致が異なる例も見付かる。

(4) Nous pratiquons des tarifs préférentiels CE et spécial étudiant.
    "私どもはCE優遇・学生特別料金を実施しております。" [CE=Comité d'entreprise]
    http://www.institut-aux3sens.com/prestations-esthetiques.php
  

エステの料金は、一般料金と契約CE向けものが載っているが、様々である。 ここで、préférentielがtarifsに性・数で一致し男性複数であるが、 spécialは一致せず男性単数であることに注意が必要である。 ただし、表記のみでほとんどの方言では発音上は一致が分からないばあいである。

単独で使われるばあいもある。不定冠詞複数 des のあとに、 無変化で出てきている。

(5) Merde, dommage que asus ne fait pas des spécial étudiant
    "クソ、ASUSが学割をしないのは残念"
    http://forum.hardware.fr/hfr/OrdinateursPortables/Ultraportable/unique-zenbook-infinity-sujet_70318_1.htm
  

無冠詞で属詞のときもある。この例は、学生限定パーティーの宣伝である。

(6)  Enfin bref tu l’auras compris le jeudi c’est spécial étudiant!
     "つまりさ、分かったろう。木曜日は学生特別だ。
     http://www.soonnight.com/q/special-shooters/soiree-special-shooters,0,3.html
  

内容が異なる形容詞・過去分詞との並置もある。

(7)a. Toutefois, une récompense surprise et spécial nouvel an sera offerte à chaque participant.
      "それでも、驚きの新春特別褒賞が参加者皆に提供されます。"
      http://community.eu.playstation.com/t5/Ev%C3%A8nements/PlayStation-Home-Brisons-la-glace-pour-le-nouvel-an/td-p/17873130
  b.  Le bar du Royal Monceau a donc trouvé  un menu idéal et spécial météo capricieuse:
      "してみると、Royal Monceauのバーは、理想の、気紛れな天候特別セットメニューを見付けたのだ"
      http://www.sofoodsogood.com/2013/06/27/bento-lego-au-royal-monceau/

これらの例からはspécial が、 文脈は限られるにせよ、 無冠詞の名詞に前置する無変化の何かになっていると考えられる。

あとに固有名がくるときも同じとみなしてよいかは、分からない。

 (8) Le coffret inédit et spécial FNAC
     "未編集・FNAC限定ボックスセット"
      http://www.paris14.info/archive/2009/12/30/dvd-chronique-novembre-decembre.html
  

2015年7月5日日曜日

敬意逓減の国別の違い? Will から Would へ

丁寧な依頼形の will と would についてである。 敬意は would の方が高いとされている。

敬語は、使っているうちに普通の表現になってしまう。 これを「敬意逓減の法則」と言う。 例えば、英語の you はもともと複数形で単数の thou と対立していた。 フランス語の vous のように tu に対して丁寧な単数としても使われたものであったが、 今ではそうであったことすらも忘れされている。

この法則にあてはまりそうなので、 Will you please と Would you please で、アメリカとイギリスにおける割合の変化を 例によって Google Books Ngram Viewer でグラフ化してみた。

いずれの国でもが would の割合が増えている。 これは敬意逓減が起きていることを示すはずだ。

ところで、 以前はイギリスの方がより丁寧な would を多く使っていたが、 現在はアメリカの方が多く使うようになっている。 これが何を反映しているのかは、思案中である。

2015年7月2日木曜日

Can I と May I の誰が利益を得るかでの使い分け

許可を求める Can I と May I の相対的な頻度を Google Books Ngram Viewer で調べてみた。

いずれの動詞でも can の使用が増えている。 ただし、動詞ごとにある程度の違いがあるようである。 ask のばあいに can の割合がまだ低いのは、 許可については can より may がフォーマルと思われているからであろうか。

これに対して、"May/Can I help you" のグラフでは can の割合が減っている。

これは can I と may I の混同によるのであろう。 むしろ自然な表現であるはずの Can I help you を「誤用」とする母語話者するいるようである。 (Is it incorrect to say, “Can I help you?”?[Yahoo! Answers] L2話者がL1話者に言われて質問している。)

2015年5月18日月曜日

接続詞としての「なので」と「だから」

接続詞としての「なので」は、 まだ載っている国語辞典が少ない。 載っていても属する文体が口語である旨の だだし書きがある(『三省堂国語辞典』第7版)。 検索エンジンは約物を無視するし、 Google Books で縦書きのものが行が逆になっているので、 探しにくい。用例は Google Books で探してもあまりみつからない。

電話に出なかった。なので、翌日にまたかけた。 (城崎玲『美樹へ』文芸社、1999, p.124.)

いっぽう「だから」は、記載があり、 文体についてのだだし書きもないようである。 『日国』の例は 19世紀半ばに遡る。

滑稽本・七偏人〔1857〜63〕五・下「洗湯(おぶう)へはいって帰て来ると、忽地腹はへっこりサ。然(ダ)から先熱盛にして十三盃と遣らかしたが」

助動詞「だ」の連体形+助詞「ので」の再分析による「なので」と、 助動詞「だ」の終止形+助詞「から」の再分析による「だから」は、 同じような変化の結果である。 しかし、 「だから」は規範になっているが、 「なので」はまだ公式なところでは許容度が低いという判断らしい。 しかし、 公的な場面でも「なので」はみつかる。

国会議事録検索システムは約物も検索してくれる。

要は、裁判官であっても裁判員であっても、過去にさかのぼって何が起きたかを見ることはできません。なので、裁判官であっても裁判員であっても、よく言われる、証拠と法だけに基づいて裁くのであると。 [第189回国会 法務委員会 第11号 平成二十七年四月二十四日(金曜日)]

2010年5月12日から2015年5月12日まででは、 「。だから」は2625件、「。なので」は395件である。 50年前の1960年5月12日から1965年5月12日まででは、 5386件、「。なので」は0件なので、比較的最近に増えてきたようである。

2014年11月21日金曜日

「汚名」はどうするものなのか

グラフを修正しました。

飯間先生らによる Tweetのまとめ 誤用ではない?「汚名挽回」「名誉挽回」をめぐる辞書編纂者らの議論にあるように、 「汚名挽回」は《誤用》とは言えない。 意味についても、 「挽回」は"悪い状態をよい元の状態にする"ことなので、 「領地挽回」も「失地挽回」も同じことになる。

これに関する議論で個人的に不満なのは、 「汚名返上」がいつから規範になったのか、 また、それ以前はどういう形が規範とされていたのかである。 これについては、別サイトでも日記を書いたことがあるが、 グラフを作ったので、こちらでも書く。

結論から言えば、「汚名返上」自体も戦前においては、通常の表現ではなく、 「汚名を雪ぐ」が適切な表現であったということになる。

「汚名」がある状態の改善として『日国』にあるものは、 『読本・椿説弓張月』(1807--11)続42回「国の為に忠義を竭(つく)して、〓々(ててご)の汚名(オメイ)を雪(きよ)め給へ」である。 しかし、明治以降の例を Google Books で拾うと、 河竹黙阿弥(1892)『狂言百種』の「汚名を雪ぎ」、 柳亭種彦(1898)『偐紫田舎源氏』の「汚名を雪ぎ」のように 「雪ぐ」が多い。

「汚名返上」のGoogle Books における初出は、 1948年『国民健康保険小史』の 「山中町かつては解下最苗の不健康地で死亡卒は千人に十八人の再卒の汚名返上が 戎立の助槻となり」である。 なお、1922年の『歴史の中の教師』は、1993年にぎょうせいから出版されたもので、誤登録である。

「汚名挽回」はこれより古く 1919年『キネマ旬報』「ケイシ—は汚名挽回のため」である。 次は[雑誌では号の刊行年に関係なく、創刊の年が表示されることがあるようだ 2016-10-05] 1928年『三重縣風物記』であるが、用例を見ることができない。 その次が1942年『大東亞戰爭海戰史: 緖戰篇』「汚名挽回のため小癥にも出柒して來た」 である。

1930年から5年(1930年1月1日から1934年12月31日のような分け方)で、 割合を積み上げ面グラフにしたのが、次のものである。 「汚名返上」が拡大したのは、戦後1945年-1950年の短い期間である。 一方、これより古い「汚名挽回」が広まるのは1960年代を待たなければならない。

古来からの「汚名を雪ぐ」が、この議論であまり出てこないことが不思議である。

2014年10月3日金曜日

英語で1語として綴られるようになる基準が分からない

fire fighter と firefighter が混じっていて、 後者に変化している最中のようである。

上の赤線は、1語で綴る割合である。下の青線は参考のための fireman からの移行の割合である。 gender-neutral な表現への移行として、 fireman からは fire fighter がガイドライン (例: カナダ政府)にある。 しかし、1語にした firefighter がどんどん増えている。

一方、stewardess の言い換えである flight attendant には1語の表記はほとんどない。

複合語が1語、ハイフン付き、2語のどれで表記するかは、 分からないことが多い。 とりあえず名詞+動詞er型の複合語を集めて調べてみたい。

2014年9月26日金曜日

ジェンダー不平等解消への言語の変え方 2種類

日本ではどういう訳か 英語圏のジェンダーの区別をしないようにする取り組みのみが 紹介されている。 日本語のように文法性の標示が義務的でない言語では、 そういう方向を紹介する必要があるが、 それだけではまずいと思う。

英語の例として、man が"男"と"人"の両方の 意味をもっていたのが問題視されたことの解消として、 "人"の意味で human の使用が広まった例をまず 確認しておこう。同じような時期から、 men の相対頻度が下がり、humankind の相対頻度が上っていく。

それに対して、文法性の標示が義務的な言語では、 文法性に対して中立な単語を使うのが難しいので、 両方の性を使うという方向になる。 スペイン語の profesora `女性の教師' の相対頻度も近年、 上っている。 グラフは定冠詞つきものである。 なお、1900年前の高まりの原因は不明である。

フランス語の大統領の女性形の相対頻度も作ってみたのだが、 これは少し意外だった。 アカデミーの規範である女性形の敬称に男性名詞の組合せが一時的に増えたもので、 現在よく使う敬称も名詞も女性のものの方が古くから使われていた と読み取れる。

2014年9月23日火曜日

母語話者の「語感」とコーパス

強意語 very と really の使い分けについての 学習者向け記事があった。 その中では very を客観的、 really を主観的としている。

この主張自体には、とやかく言う気はない。 母語話者がそう思うことは貴重なデータである。 ただし、それが現実を反映しているかは別であり、 確認する必要がある。

really と very で主観性に差があるとすれば、 形容詞によって、really と very のオッズ比が変わるはずである。 例によって手抜きで Google Books コーパスを 使って確認しよう。 hungry と busy では hungry の方が主観性が高いので、 really に偏るはずである。 下のグラフの青線と赤線は、 be 動詞現在形一人称 am の省略形 'm の後でのそれぞれ hungry と busy のオッズ比の 変化である。 これを見れば、確かに主観的な hungry の方が近年は高く出ている。

ところで、主観性が高いはずの hungry でも、 緑線のように am のままであれば、圧倒的に very に偏る。 これは何を意味しているのであろうか。 really と very の選択のかなり大きな部分が、口語であるか否かによると考えるのが無難であろう。

実は、同様の傾向が awfully について 1910年ごろにも見られる。

これらのグラフから考えるに、むしろ very と really のちがいは、 very が無標の強意語であるのに対して、 really が近年の口語で流行の強意語であることを示しているのではないだろうか。 まだ強意ができる形容詞が広まりつつある段階で、 強意されやすさが主観性に関係しているのではないかと思う。

2014年9月21日日曜日

not to do か to not do

英語の外国語向け学習書をチェックしていて、 不定詞の否定形が気になったので、 Google Books Ngram でグラフを作ってみた。 まだ変化の兆しがあるという状況だろうか。

伝統的な規範では not to V のように否定辞 not が不定詞の前に置かれる。 しかし、to not V のような「誤用」が学習者にみられる (例えば、M. Swan の Pratical English Usageを参照)。 母語話者にも使われているようだが、 実際の使用例は記憶になかった。 ところが、ESL(English as a Second Language)向けのもので、 to not do がかなり見られるようである。 例えば、 Collins の Easy Learning English Verbsでは一貫して to not do のような語順を選んでいる。 Longman Pocket Phrasal Verbs Dictionary でも 少なくとも go back on の項目では to not V を使っている。

ということで、Google Books Ngram Viewer で、 to not V と not to V の相対度数のグラフを作ってみた。 アメリカ英語のもので、分子は to not V の度数、分母は to not Vと not to Vの度数を足したものである。 1960年代ぐらいから to not V の割合が増えている。

2013年11月20日水曜日

熟語1つが流行するだけでも分布が変わったように見える

下の Google Books Ngram Viewer のグラフを見て欲しい。 フランス語において venir "来る"の到達点を示すために、 どういう前置詞が使われてきたかの変化を調べようとして見付けたものだ。

込みいった式を使っているが、要するに venir のあとに à, en, dans が 来る場合の中で en が使われる割合を示すためのグラフである。 青のグラフが示しているのは、それまで 10% ぐらいだった en が次にくる 確率が 1830年代から急速に上がり 30% ぐらいになったということである。

Ngram Viewer から年代ごとの用例を確認できるので、 見てみたところ venir en aide が、予想外に多いことが分かった。 そこで分母・分子ともにこの表現を除いたのが赤のグラフである。 これでは 1830年のあたりでほとんど変化がない。

"助ける" という意味ので目的語に"彼ら"を付けて、 leur venir à, les assister, les aider の中での最初のものの 内訳のグラフは下のようになる。 他の 2つは Grand Robert の aide の項で参照として 挙げられているものである。

このグラフにより venir en aide à が19世紀中頃から20世紀前半に よく使われた表現であることが分かる。

辞書の項目に時代性の説明があるものが 手持ちの辞書やネットのものでは見付けられなかった。 TLFにも Syntagmes fréq. "頻繁な連辞" とあるだけである。

この例は、かなり大きなコーパスであっても、 実際の用例を確認しなければ、 熟語の流行という偶発的な要因で統語的な分析で誤る可能性があるという教訓になるであろう。

2013年11月16日土曜日

S字カーブを伸ばす

暇というわけではないのだが、この前の項目のグラフを変換して、伸ばしてみた。 左軸が odds の対数目盛、右軸が正規分布の逆関数である。 300年分を全部つかうのは大変なので、5年ごとに数字を読んで、Google Spreadsheet でグラフにした。

ほとんど見分けがつかない。年との相関係数は、odds の対数が 0.9885..., 正規分布が 0.9852... なので、 誤差の範囲だろう。

2013年11月15日金曜日

英語・現在完了助動詞の変化についてのS字カーブ

Google Books Ngram Viewer でかなりきれいな S字カーブがみつかったので、 記念に保存。

英語の完了形は、 非対格動詞については be+過去分詞から have+過去分詞に変化している。 このグラフは is come から has come への変化について。 この2つの選択肢があるところで、has come の確率が S字で増えていくことが分かる。

暇ができたら、log (p/(1-p)) と正規分布累積分布関数の逆関数を かまして、どちらが直線っぽいか確認したい。

2013年11月1日金曜日

Google Books Ngram Viewer にみる whom と who

Google Books Ngram Viewer には、Ngram Composition という機能がある。 この機能は歴史言語学において非常に重要である。 変異形の割合変化のグラフが一瞬で書けてしまう。

疑問代名詞 who と whom が対格のときのグラフを描いてみよう。 検索文字列は次のようなものである。

(Who did he / (Whom did he + Who did he))

その結果は下のようなグラフになる。 100%に近いほど who が使われ、0%に近いほど whom が使われている。

宇賀治正朋先生の『英語史』(現代の英語学シリーズ、第8巻、開拓社、2000) には次のようにある(p.340)。

疑問詞 who が動詞または前置詞の目的語である場合、 本来の whom に代って主格形 who が用いられることがある。 15世紀中頃に始まり (OEDの初例は 1450 Paston Letters から)、 以後、目的語 who は次第に盛んになり、早くも17世紀後半には whom をしのぎ、 PEでは whom は稀にしか用いられない。

19世紀初頭には who へ変化していたが、 そのあと規範文法 prescriptive grammar が対格形 whom を広めていったことが グラフから見てとれる。 その後、書きことばでもゆっくりと主格形というより無標形の who に戻って きている。