2016年6月13日月曜日

日本諸方言における前鼻音のOTによる一解釈

日本語の古語にあったとされる前鼻音が弁別を強化 enhance するため、 つまり素性を追加することで弁別しやすくするためであったと考えてみようという試みである。 OT(最適性理論)を使っている。 元ネタは、次のもの(直接の参照はKindle版):

  • Flemming, Edward. 2005. Speach Perception and Phonological Contrast. In Pisoni, David, & Remez, Robert (eds.). The Handbook of Speech Perception. Blackwell Handbooks in Linguistics. Malden, MA: Blackwell.

ただし、Flemmingがよくないとしている方法を強引を使っている。 アイディアは単純なのだけど、テクニカル。

使う制約はFlemmingのものだが、PrenasalizedはFlemmingが妥当ではないとしているもの:

*VTV
母音の間では無声阻害音はよくない。
Prenasalized
有声阻害音なら前母音鼻音化するもの。
Ident(Nasal)
鼻音性は基底と表層でできれば同じ。
Ident(Voice)
有声性は基底と表層でできれば同じ。

まずは、東北の /mato/ = [mado], /mado/ = [maⁿdo] を作ってみる。 ここでのミソは、同順位の制約の違反は足し算にならないこと。

(1)a. 東北方言、基底は無声
/mato/*VTVIdent(Voice), PrenasalizedIdent(Nasal)
 mato*!
⇒mado *, *
 maⁿdo *, *!
(1)b. 東北方言、基底は有声
/mado/*VTVIdent(Voice), PrenasalizedIdent(Nasal)
 mato*!
 mado ,*!
⇒maⁿdo , *

これの前にあったはずの古代日本語のばあい。ただし、*VTVの位置はIdent(Voice)以下ならどこでもいい。

(2)a. 古代日本語、基底は無声
/mato/Ident(Voice), *VTVPrenasalizedIdent(Nasal)
⇒mato ,*
 mado*, *!
 maⁿdo*, *!
(2)b. 古代日本語、基底は有声
/mado/ Ident(Voice), *VTVPrenasalizedIdent(Nasal)
 mato ,*!
 mado *!
⇒maⁿdo *

PrenasalizedとIdent(Nasal)が同順位ならゆれている状態。Ident(Nasal)>>Prenasalizedなら現代の前母音がない状態。

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