比較言語学では、系統関係がありそうな諸言語を比較して、 その共通の祖語を「再建」、つまり、どういうものかを推定する。 この仮説としての祖語の位置づけについては、 現実主義(realism)と代数主義(algebraism)の立場がある。
例えば、英語/ラテン語を比較するとき、 (father, pater), (brother, frater) のようなものから、 (f, p), (b, f) の対に対応する音があることが、推定できる。 通常、それぞれ、*p, *bh (*は文献にない再建形) とされる。 現実主義では、それぞれ、両唇無気無声閉鎖音、両唇有気有声閉鎖音という実体であると考える(後者は音声学的には bʱのような息もれ音とする方が自然であろう)。 他方、代数主義では、それぞれ、単なる項にすぎないと考える。 何か音はあるが、派生した言語の音の関係こそが大切で、 実体はどうでもいい。 区別のためのラベルにすぎない。
さて、 インド・ヨーロッパ祖語については、少数説として 声門音仮説がある。 主要説ではグリムの法則で表される推移で、 ゲルマン語派が音を大きく変えたと考えるのに対して、 声門音説では逆に他の語派が音を大きく変えたと考える。 どちらの立場でも説明は可能である。
個人的には、現実主義と代数主義に分けて考えるより、 仮説に実体についての部分と構造についての部分があると考える方がよいと思う。
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